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Fig-5. Pollution Status of the Baltic Sea

た。流入する有機物(BOD)の年間総量が140万トンにもなり、73万トンの窒素、40万トンのリンが流入した。その上、分解不可能な有機塩素化合物であるPCB、DDTも多く堆積し、60トンの水銀も流入した。このため、多くの鳥類やアザラシなどの海洋生物が減少し、魚類や底生生物に大きなダメージを与えた。これらの環境破壊を改善するため1980年に周辺7ヶ国の協定によるヘルシンキ条約が発効され、流入負荷量を半減する規制が施行された。
(3)ペルシャ湾の環境状況と環境修復活動
ペルシャ湾は瀬戸内海の11倍の面積で、湾内には潮汐流と湾内循環流が存在するしかし、ペルシャ湾の最も特徴的な事は、流入する河川水(1500m3/s)よりも海面からの蒸発量が10倍であることだ。このため塩分濃度は通常の1.5倍の40〜70g/1にもなり、生物相にストレスを与え、海洋生物は生息範囲の限界で生息している。
このペルシャ湾は1991年の湾岸戦争で800万バレルの原油流出により人為的環境破壊を受け世界を驚かせた。しかもこの海域は世界で最もタンカーが往来し、年間3万隻のタンカーが通過する。それに伴う石油流出が毎年25万バレルにおよび、海域を汚染している。この原油流出により多くの海洋生物や野鳥が減少していった。特に、湾岸戦争時に流出した大量原油は沿岸汀線にタール帯となって張り付き、浅場の動植物、特にマングローブ林や藻場、魚介類等を死滅させ、野鳥は絶滅の危機に瀕している。海底ではタールが敷き詰められ珊瑚礁や底生生物、巨大哺乳類(ジュゴン)等に大きなダメージを与えた。一方、湾内は恒常的に重金属類が堆積し汚染されている。
原油汚染されたペルシャ湾での環境修復活動として、サウジアラビア対策センター、米国のU.S.EPAやNOAA等の国際機関により追跡調査、環境対策が行われた。さらに、水鳥救済センターによる野鳥救済の国際ボランティア団体の市民活動、汚染された海域の保護と市民学習のための野性動物サンクチュアリ(保護区域)の設定など、NGO活動、大学研究者チームによるの国際研究・調査が行われてきた。
(4)チェサピーク湾の環境状況と環境改善
米国は河口汽水域(Estuary)が850個と多く、この中で最大の閉鎖性海域が東海岸のチェサピーク湾である。この湾の規模は図-3に示したが、瀬戸内海の約半分の面積で、平均水深が6.5mと浅く、この湾に46本の河川水が流入し多くの汚染物を運んでいる。上層が河川水、下層が海水と明確な成層を示している。
チェサピーク湾分水界での人口は1500万人で沿岸域の人口増加が著しい状況にある。都市化と開発による湾内の環境は悪化し、沿岸河口域の湿地帯の多くが消滅した。この湿地帯の破壊により、流入した汚染物質の吸収・浄化能力が低下し生態系にも大きな影響を与えた。それは、湾内栄養塩過剰、貧酸素水塊の発生、海底の海藻の消失、カキ、ブルークラブ等の魚貝類の減少となった。
このように環境汚染が進行したチェサピーク湾を修復するため、連邦政府、州政府は1987年に沿岸海域関連者の協力を得て、「チェサピーク湾における環境管理プログラム」を策定した。このプログラムでは連邦政府のEPA、NOAA、関係4州の大学研究機関、NGO組織など多くの関係者が参加して活動してきた、このプログラムは、湾内魚介類、海洋生物の回復に重点を置いたもので、その活動は、リンを含んだ洗剤の禁止、農業管理の向上、栄養塩の生物除去、住民の環境教育の徹底を行なうことである。この中にはミチゲーション事業も実施され、湿地帯復元や藻場の造成も行われている。今後、このプログラムは大きく進展し湾内の環境保護・回復がなされるであろう。
(5)タイ・シャム湾の環境状況と環境修復活動
アジア諸国の海域では乱開発による環境破壊が著しい状況にある早急な環境修復と環境規制の導入が必要である特に、南中国からベトナムにかけての大陸棚上では大規模な石油掘削が行われ多くの環境問題が発生しているタイ沿岸域のマングローブ林は、1961年に約37万haあったものが25年後の1986年では17万haと減少し53%のマングローブ林を失った。主な破壊要因は、炭の原料、薪、違法な伐採、塩田の開発、大規模な港湾施設、埋立であったが、最大の要因はエビ養殖場造成の拡大であった。エビ養殖で破壊されたマングローブ林は全体の64.3%にもなった。エビの生産量は1994年で約36万トンで、その54%が日本に輸出されていた。瀬戸内海の自然魚介類の年間総漁獲量が約25万トン(1995年)に対して、大変な量のエビを輸入していることになる。
マングローブ林が消滅することによって浄化能力を失い、エビ養殖による環境悪化が拍車をかけている。このための環境修復活動として、沿岸住民によるNGO活動が始まり、マングローブ林の面積確保と移植等のミチゲーション活動が行われている。
3. おわりに
以上、世界の代表的な閉鎖性海域の環境状況について調査しその結果の一部を紹介した。どの海域も驚くべき環境悪化状況で、特に、南アジアの今後の開発状況が心配される。その他の海域も含め、概要をまとめたのがTable-1〜3である。

 

 

 

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